小規模イーサン・ハント 『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』を観た日
雑踏の中、立ちすくむ。
あの人はついさっきまでここにいたのに。
「やっぱり、いませんか?」
遅れてきた彼に声をかけられ、首をふる。
やはり現実は映画のように上手くはいかなかった。

(ネタバレなし)
『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』を観てきた。
それはもう満を持して。
こういう大きな意味の言葉を使うのは極力避けているが、
今回ばかりは小さな自分が「許可!」と言っている。
なんたって前作から約2年。
今か今かと待ち続け、先に観てしまった家族のネタバレを恐れながら
暇さえあればシリーズを観直していた。
ついに昨夜、前作のクライマックス(ほぼずっと山場ではあるが)を観終えて
速攻映画館の予定を立てる。
ドキドキわくわく。
やっと観られるんだー! のテンションのまま座席に着き、トムに出会い、
あのイントロが流れ……。
結果、最高だった。
予習万歳。
きっと私は劇場一二を争うほど、この時間を楽しんだ。
相も変わらず、ピンチばかり、手に汗握る、何度も早く終わってくれと願う。
いつにも増して、仲間は熱く、敵は大きく、俳優トムの心身を疑う。
ああ、世界はこんなふうに一人の人に守られている瞬間があるのかもしれない。
それに気づかず私はのほほんと生きているかもしれないし、
毎度イーサン(主人公)の活躍に「俺たちのことだぞ」と頷いている人がいるのかもしれない。
ありがとう、未来を守る人。
願わくば私も強く賢い存在になりたい。
鑑賞後特有の無敵オーラを纏い、
感想を語り合うためカフェに向かった。
空席を確認し、注文する。商品を受け取る。
そうして2人分空いていた席に戻ると、ハンカチが。
油断……。
比較的空いていたはずだったが、一瞬の波に敗北。
座席難民になってしまった。
ウロウロと、圧をかけて申し訳ないが周遊し、離席する方を発見する。
今だ! とその席に向かい、その方が残した荷物を取りに来るのを待つ。
だが帰ってこない。
返却口へ行き、出口付近で姿は消え、一向に戻らず。
……もしかして忘れてる?
いや、隣の方の荷物って可能性もある。
肩を叩いて尋ねた。
「これ、お兄さんのですか?」
大学生くらいの若者は首を振る。
「さっきのお姉さんのですかね……」
お兄さんは協力的で、ヘッドホンを外して答えてくれた。
こうしちゃいられん。
無敵の気分の私はすぐに店を出て、お姉さんの姿を探す。
イーサンならこんなとき、雑踏の中から彼女を見つけるんだ。
大多数は背景になって、彼女だけにピントが合う。
振り返る彼女がクロースアップされる。
だがしかし、十字路に出ればそこは現実。
まっったくわからない。
どっちに行ったとか、お姉さんらしき服装もなく、みーーんな知らない人。
知ってた! と苦笑していると、親切な先ほどのお兄さんも追いかけてきてくれた。
「やっぱり、いませんか?」
の問いに首を縦に振り、「店員さんに渡そう」と合意して、店に戻る。
めげずに「引き継ぎ、よろしくお願いします!」の気持ちだったが、
店員さんはさらりとしていて、
「そうだよね、業務で日常だもんね……」
と残り僅かな浮かれ気分も消沈。
席に座り、紅茶を手に取ったところ、
「あの!」
と、女性が入店。
荷物のお姉さんだった。
驚いて声は出ず、立ち上がって荷物の場所だけ指差す。
「ありがとう!」
お姉さんは手を振ってくれた。
お兄さんと目を合わせる。やりましたね。
荷物も無事でよかったですね。見届けられましたね。
かくして、小さな小さな日常のミッションをやり遂げた。
派手な映画を見て、人助けをした。
お姉さんは私をヒーローにしてくれたし、
お兄さんは一瞬仲間になってくれた。
どこかの誰かは今日も人を助けるし世界を救う。
全部が作り話でトム・クルーズ万歳、アメリカ万歳だとしても
その話が日を面白くしてしまうから映画は良い。
座席は満足に確保できないし、落とし主は追えなくても
無敵じゃない私たちは、共に進むことで解決に近づけるんだなと思った日でした。
余談。
保冷バックのチャックが外れ、どうにも嵌まらなくなった。
人間と無機物は助け合えない。

コメントを残す